令和5年11月26日(日)、山口新聞「やまぐち近代建築ノート」第80回が掲載されました。
今回は、明治維新百周年を記念して昭和43(1968)年に建てられた「萩市民館」。
建築家・菊竹清訓は、この大胆な形に、黒船来航ならぬ、維新百年からの「白い箱船の船出」の思いを込めたのでしょう。
大ホールの照明デザインは石井幹子。
また、大ホール緞帳は田中一光のデザイン。
日本を代表するデザイナーたちのコラボレーションにより唯一無二のホールが誕生しました。
現在築55年。今後も市民に愛され、活用され続けてほしいものです。
以下、「山口近代建築研究会HP」へ。(画像がクリアに大きく見えます。画像・文とも無断転用不可。)
明治維新百周年の昭和43(1968)年、萩市中心部の江向地区に、ユニークな形をした建築が誕生した。
RC壁とガラス建具の上に巨大な鋼板の箱を乗せたこの建築は「萩市民館」。
設計者は、菊竹清訓(京都府出身、1928~2011年)だ。
早稲田大学建築学科卒業後、村野・森設計事務所などを経て独立、その後数々のユニークな作品を生み出す。
昭和34年には、都市や建築の発展を生命の新陳代謝に見立て、ユニット化した空間(細胞)の取り換えや、増殖で対応していこうとする建築運動「メタボリズム」を黒川紀章らと共に提唱したことでも知られる。
特徴の一つは、独特かつ合理的な平面配置だ。箱屋根の下、東西の軸線上には、大壁に囲まれた大小2つのホールが対峙する。
一方、軸の南北には、将来の増改築に対応可能な事務や展示の2ゾーンを配置。つまり空間構成において、先のメタボリズムの理念を一部実践したようにも思えるのだ。
次に、箱屋根を支える大胆な構造形式。箱部分は鉄骨の立体トラスで組まれ、それらの支点部はホールのRC壁ブロックの上に据えられる。
大屋根の浮遊感は、こうした構造に起因するものだろう。
さらに複合的魅力を持つ大ホール。
天井は張られず一見素朴な印象だが、鉄骨に張り巡らされた小電球が全点灯すると、ホール内はきらめく星空を見上げるような幻想的な空間となる。
この照明デザインは石井幹子。
また大ホール緞帳は田中一光のデザイン。
日本を代表するデザイナーたちのコラボレーションにより唯一無二のホールが誕生したのだ。
隣接する萩市庁舎と共に、萩の都市景観に新風を吹き込んだ菊竹の公共建築。
菊竹は、この大胆な形に、黒船来航ならぬ、維新百年からの「白い箱船の船出」の思いを込めたのだろう。
この思いを汲み、今後も市民に愛され、活用され続けてほしいものだ。
(山口近代建築研究会、一級建築士・原田正彦)
【メモ】萩市江向495−4、DOCOMOMO Japan「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」選定、参考「現代建築の軌跡」 (1995年、新建築社)