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やまぐち近代建築ノート連載 第54回めぐみ幼稚園第一園舎(旧下関バプテスト教会)~園舎からヴォーリズの世界へ

南東側外観。本館の切妻屋根は金属板瓦棒葺きで、外壁には大小の開口部がある。鐘塔東面の玄関回りに意匠が集中している。
〔上右〕園内配置図。市街地から細い路地と石段を上った高台の地に文化財が2棟ある
〔上左〕南西側外観。側廊部分で屋根勾配が変わり、緩やかになっている
〔下右〕旧教会身廊部は、現在園舎の保育室
〔下中〕現在の下関バプテスト教会(上田中町2の7の11)。後継となる「一粒社ヴォーリズ事務所」が設計を手掛け、昭和32年に竣工した
〔下左〕ヴォーリズ設計の日本基督教団今津教会(昭和9年、登録有形文化財)。外壁は同じスタッコ仕上げ、内部はチューダー様式

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2022年9月25日(日)、山口新聞の「地域文化」欄に、第54回記事「めぐみ幼稚園第一園舎(旧下関バプテスト教会)」が掲載されました。
もう10年前でしたか、山口県にもW.M.ヴォーリズの作品が残っていたことにとても驚き、感動したものです。
図面も見つかったらしいし、以前購入した「ヴォーリズ建築の100年~恵みの居場所をつくる」(山形政昭監修、2008年刊)にも、ヴォーリズの主要作品のリストに「下関バプテスト教会」として掲載されています。

ここへは取材で何度か行きましたが、駐車場はなく、市街地側から細い路地と石段を上った高台の地にあります。
この敷地内には、他に「第二園舎」(大正5年移築、第24回で紹介)があり、両棟とも平成19年に国登録文化財文化財になっています。
アプローチしにくい場所だけに、あまり知られていませんが、近代建築ファンなら、一度は訪れてみたい建築です。

以下、「山口近代建築研究会HP」へ。(画像がクリアに大きく見えます。)

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近代建築ファンなら、誰もが知っているW.M.ヴォーリズ(1880~1964年)。
明治38年に来日し、滋賀県の近江八幡を拠点に活動した米国人建築家だ。
住宅、学校、商業ビルなど1000棟を超える西洋建築の設計に携わった。
また、キリスト教の伝道者でもあった彼は、プロテスタント系の教会堂やミッションスクールも多数手掛けている。

昭和5(1930)年建設の「下関バプテスト教会」は、そのヴォーリズが設計した県内唯一の作品だ。
木造二階建て一部地階、切妻大屋根の本体と方形屋根の鐘塔とが組み合わさった外観をなす。
外壁はモルタル塗りの上にスタッコ仕上げで、石造風の重厚感を持つ。
二階窓下の手すりは古典的意匠。
一方、玄関上部と三連窓のアーチは半円形でなく、両端が円弧、先が尖頭型の「チューダー・アーチ」だ。

鐘塔の1階に玄関がある。
平面全体はシンメトリーで、西に「聖所」を持つ「身廊(会堂)」が中央の東西軸上に配され、その南北に「側廊」が並ぶ「3廊式」となっている。
内部に装飾は少なく、カトリック系教会堂と違ってやや質素な印象だ。
説教や集会を主な目的とするプロテスタント系の実用性重視の姿勢によるものではないだろうか。

昭和32(1957)年、ふもとの別敷地に新教会堂が竣工した後、この教会は「めぐみ幼稚園第一園舎」に改修。
1階は保育室や大工室、鐘塔2階は読み聞かせの部屋となる。
教会として27年、幼稚園としても既に65年と、空間は生き永らえているのだ。

平成19年、園内の「第二園舎」(大正5年移築、第24回で紹介)と共に、登録有形文化財となった。
山の自然に囲まれ、歴史と文化の香り豊かな空間。その恵みの中ですくすくと成長していく幼児たちは、何と幸せなことか…。

(山口近代建築研究会、一級建築士・原田正彦)

【メモ】下関市上田中町2の12の26、国登録有形文化財、参考「ヴォーリズ建築の100年~恵みの居場所をつくる」(山形政昭監修、2008年刊)

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