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やまぐち近代建築ノート連載 第51回旧小野田セメント本社事務所~表現主義、内部に豊かな空間

▲東側外観。中央パラペットを三角に立ち上げ、放物アーチの二本の付柱の間に小野田セメントの商標がはめ込まれる。二階建てだが、三階建て分の高さがある
〔右〕階段室。タイルボーダーは、「雷紋」か、ギリシア「ミードロス」にヒントを得たものだろう。渦を巻く手摺は表現主義的
〔写真2〕内部大会議室。RC造の柱とハンチのある梁が作り出す広い空間で、天井が高い。床は木レンガ敷で踏み心地が良い
〔写真3〕東京工業試験場正面外観。吉田享二設計、大正12年建設。正面デザインの構成が似る。現存せず。三哲文庫(防府市、昭和17年、現存せず)も吉田の設計とされる

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2022年6月26日(日)、山口新聞の「地域文化」欄に、第51回記事「旧小野田セメント本社事務所」が掲載されました。
珍しい「表現主義」風のファサードを持つ建物です。
今回は、「吉田享二先生追想録」(昭和29年刊)により、この建物が吉田享二の設計になることを突き止めたこと、同氏が設計した「東京工業試験場」は、同じ表現主義風のファサードで、両者が似通っていることを発見したこと、が成果です。

以下、「山口近代建築研究会HP」へ。(画像がクリアに大きく見えます。)

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旧小野田セメント㈱の敷地や施設は、現在、後継となる太平洋セメント㈱の子会社「太平洋マテリアル㈱」が使用している。
会社や多くの施設が変遷しても、黙々と現役の「工場事務所」であり続けるこの建物が今回の主役だ。

RC造2階建て、昭和3(1928)年の建設だが、白亜の堂々とした外観は築94年の年齢を感じさせない。
全体は矩形で、壁面四方に縦長窓が連続して並び、窓間には、先が放物アーチの細い付柱がつらぬき、垂直感を際立たせている。
また車寄せ部分は、太めの丸柱に緩やかな曲線を持った幅厚の庇。これらは古典主義とは明らかに異なる「表現主義」の意匠だ。
ちなみに、表現主義とは、20世紀初頭ドイツやオランダで顕著に現れた、自由な曲線や個性的な形態・意匠が特徴の様式で、日本では大正期から昭和初期にかけて流行した。

内部は、材料や家具にもこだわりを見せた豊かな空間が広がる。
工場事務所は単調で無機的になりがちだが、ここでは温もりあるものとし、またそれを実現させた企業の懐の深さも感じる。

  さて、この設計者は誰か…。調べを進めると、吉田享二(1887~1951)の名前が浮んだ。
兵庫県出身の彼は、東京帝国大学卒業後、早稲田大学で長年教鞭を取り、建築材料学の権威となる。
設計も行い、主要作品リストの中に「小野田セメント本社」の名称を見つけた。
しかも作品の一つ「東京工業所(大正12年)」も表現主義的建築であり、作風が類似している。
「セメント」「建築材料学」「東京工業試験場」関係のいずれかが、吉田への設計依頼へと導いたのでは、ないだろうか。

旧小野田セメントの近代建築については、この紙面でも徳利釜、山手クラブ、住吉社宅を紹介してきたが、いずれも「近代化産業遺産」に認定された。
正にルーツを守ってきた企業。
玄関壁の遺産登録プレートがひと際輝いて見えた。

(山口近代建築研究会、一級建築士・原田正彦)

【メモ】山陽小野田市大字小野田6276、参考「吉田享二先生追想録」追想録刊行会編、昭和29年

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