昨秋、建築学会中国支部でお世話になってる広工大の川上先生からの依頼で、歴史意匠とは違う分野で、近代建築について書くことになり、昨年12月に原稿をまとめていました。この度、この会員誌に投稿したものが発行されました。
タイトルは、「初期鉄筋コンクリート造の歴史的建造物 旧秋田商会ビル」です。
「建設経緯と建築の特徴」だけでなく、「構造図の考察」「建設に関与した建築技術者たち」「コンクリート造歴史的建造物復原のモデルに」という視点から、10枚の画像と共に1500字程度でまとめています。
[構造図の考察]
更なる大きな特徴は,初期の鉄筋コンクリート造であることだ。日本で最初にこの構造が本格採用されたのは,明治 44 年建設の三井物産横浜ビル(遠藤於菟+佐野利器設計,現存)とされるが,このビルの竣工はそのわずか 4 年後。しかも,残された構造図,矩計図等を見ると,部分的だが鉄骨も採用されている。鉄筋コンクリートは,外周の壁柱・壁と各階の床,更に 1・2 階鉄骨柱と大梁の周囲を包んでいる。ラーメン構造ではなく,新材料を組み合わせた混構造により,全体の強度増が目指されているようだ。
A図: 2 階床鐵骨鐡筋配置図(部分)。柱は 1 階事務室内の 1 通り 4 本のみ。
梁は RC 壁に「ダボ継ぎ」のような形で挿入される。
B図: 矩計図(部分)。コンクリート床に鉄骨が入っているのが確認できる。
この図から見ると,当初屋上庭園は計画されていなかったように思
われる。
C図: 基礎及び 1・2 階鉄骨柱・梁の接合部詳細図(部分)。方杖形式で柱・
梁がリベットにより接合されている。
当時は,こうした材料の構造規準や仕様書もない時代。技術的には正に過渡期のものだが,新材料を積極的に活用するそのチャレンジ精神には驚かされる。