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やまぐち近代建築ノート連載 第30回 やまぎん史料館(旧三井銀行下関支店)~冴え渡る大正期古典主義の美

▲南側外観。ルネサンス様式を基調としたシンメトリーな構成をなす。正面上部の弓形ペディメント、と二基のクラーテール(混酒器)が特に印象的。
〈 上 〉内部廻廊から営業室を見下ろす。三方2階分の縦長窓が、室内を明るく照らす。
〈下右〉玄関見上げ。中央にバクラニウム(牛頭)、フェストゥーン(懸花装飾)、柱頭はコンポジット式。彫刻的でなく、平面的で穏やかな表現は「建築家第二世代」の特徴だ。
〈下中〉屋上床見上げ。壁は煉瓦、コンクリート床下にアーチ型鉄網(リブラス)が見える。
〈下左〉旧横浜正金銀行下関支店外観。同じ長野の設計で、同年大正9年に建設された。現存せず。(報告書P.36)

2021年7月5日(日)、山口新聞の「地域文化」欄に、第30回記事が掲載されました。
今回は、旧三井銀行下関支店であった「やまぎん史料館」。
銀行建築の名手、長野宇平治の古典主義意匠を持つ堂々たる西洋館です。
彼の作品は、他にも日本銀行京都支店(明治39年/重文/現京都府京都文化博物館別館)、松江支店(昭和12年/現カラコロ工房)など、リノベーションされた事例が多いですね。
この建物も、それらに引けを取らない、完成度の高い作品だと思います。
もっと多くの人に知ってほしい近代建築です。

以下、「山口近代建築研究会HP」へ。(全文掲載、画像もクリアに大きく見えます。)

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〈 上 〉内部廻廊から営業室を見下ろす。三方2階分の縦長窓が、室内を明るく照らす。
〈下右〉玄関見上げ。中央にバクラニウム(牛頭)、フェストゥーン(懸花装飾)、柱頭はコンポジット式。彫刻的でなく、平面的で穏やかな表現は「建築家第二世代」の特徴だ。
〈下中〉屋上床見上げ。壁は煉瓦、コンクリート床下にアーチ型鉄網(リブラス)が見える。
〈下左〉旧横浜正金銀行下関支店外観。同じ長野の設計で、同年大正9年に建設された。現存せず。(報告書P.36)

経済の発展と共に、明治中期から大正後期にかけ、下関には多くの銀行建築が建設されている。明治26年の日本銀行西部支店設置を皮切りに、三井、住友、第一、横浜正金などの銀行の支店や営業所が続々と立地した。東南部町から岬之町に至る街路沿いは、正に近代の洋風建築群の威容を誇っていたのである。
今ではその多くが解体されてしまったが、現存するこの「やまぎん史料館」は、もと「三井銀行下関支店」として、大正9(1920)年に建設されたものだ。その後、昭和8年に山口銀行の前身である第百十銀行の本店へ、更に昭和19年には山口銀行本店へと変遷していった。

地上二階地下一階建て、徳山産御影石張り外壁の随所に西洋古典主義の意匠が施される。構造はユニークで、柱・梁のフレームを鉄筋コンクリートとし、基礎と壁部分を煉瓦とした混構造。しかも、鉄筋部分には独特のラスやバーが使用された「カーン式鉄筋コンクリート造」である。こうした構造形式は、発展過渡期のものとして学術的にも貴重だ。
設計者長野宇平治(1867~1937年)は、辰野金吾の弟子であり、数多くの銀行建築を手がけた第二世代の建築家だ。実はこの付近にもう一つ、長野の設計の「旧横浜正金銀行下関支店」があったが、こちらも古典主義の外観。大正期のセセッションや表現派の隆盛には目もくれず、生涯一貫して古典主義を貫いた。

平成20年、この建物は改修工事を終え、現在は増築部分と共に資料館や展示場として活用されている。彼の作品は、他にも日本銀行京都支店(明治39年/重文/現京都府京都文化博物館別館)、松江支店(昭和12年/現カラコロ工房)など、リノベーションされた事例が多い。彼の穏やかで品格のある作風が都市景観に魅力を加え、現代に再生できると言うことに多くの市民が理解するようになってきたのであろう。(山口近代建築研究会、一級建築士・原田正彦)

【メモ】下関市観音崎町10番6号/国指定重要文化財/施工合名會社竹中工務店、参考「山口銀行旧本店修理工事報告書」(株式会社山口銀行、清水建設/2006年刊)

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