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宮市商参会館が解体される!~NPOまちのよそおいネットワークから、「保存活用要望書」を防府市長・防府市教育長宛てに提出しました!

▲ 旧宮市商参会館と曳家移転イメージ案

令和2年12月10日(木)、市が解体に向け準備を進めている「宮市商参会館」について、

(1) 「宮市商参会」の活動拠点として記念碑的な建物であること
(2) 近代建築としての建築史的、文化的価値を有していること
(3) 栄町筋の都市景観を構成する重要な建物であること

以上の歴史的文化的価値があると言う観点から、「旧宮市商参会館の曳家移転方式による保存活用に関する要望書」を防府市長・防府市教育長宛てに提出しました。
地元からは、解体して駐車場に、との要望があるとのことですが、私たちは、この敷地の、間口は狭いが奥行きが深いと言う「町家型地割」を活かし、東に曳家移転することによって、両者の要望がうまくまとまると言う提案をしています。

以下、要望書全文。

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令和2年 12月10日

防府市長  池田 豊 様
                                               特定非営利活動法人まちのよそおいネットワーク
                                                                                                         理事長  原田正彦

旧宮市商参会館の曳家移転方式による保存活用に関する要望書

 拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。平素より、本会の活動につきましてご理解とご協力を賜り、厚く御礼を申し上げます。

さて、防府市におかれましては、防府市栄町二丁目4-5に位置する「旧宮市商参会館」について、解体することを視野に検討中である由、聞き及んでおりますが、山口県の建築文化や景観に関するまちづくり活動に取り組んできた当会としましては、この建物は、以下の点で防府市にとって重要なものであると考えており、解体することには反対いたします。

 (1) 「宮市商参会」の活動拠点として記念碑的な建物であること
当会館は、1898(明治31)年、防府天満宮の御神幸祭や節分祭など諸行事に奉参すると共に、宮市商業の発展を図ることを目的に設立された「宮市商参会」が、昭和初期に「防府商参会」と改名し、その会員らによる寄付により、1935(昭和10)年10月に竣工した建物です。翌年、この会は「防府商工会」、更に1940(昭和15)年には「防府商工会議所」となりますが、単に門前町としての繁栄ではなく、新市街地の拡張や、電信局、天神山砂防施設などの設置に尽力するなど、防府全体の発展を願って活動してきた団体でした。
この建物は、宮市商参会のこうしたまちづくり活動を支えてきた舞台であり、また防府の商業発展を象徴する記念碑であり、更に県下に残る唯一の「商業団体が建設した近代建築」でもあります。

(2) 近代建築としての建築史的、文化的価値を有していること
当会館は、1935(昭和10)年10月に竣工した建物です。設計者は、近年の調査により、防府在住の建築士貞永良昌と判明しました。
通りに対して西向きに配置され、建築面積102.8㎡、延床面積216.3㎡、木造2階建ての比較的小規模な建築ながら、外壁モルタル塗りで表面に人造石を吹き付けて石造風に見せています。正面は六本の付柱と水平に伸びるパラペットとで大胆に構成され、柱間に連続する縦長窓を持つなど、シンメトリーでモダンな外観をなしています。
一方、建築装飾については、柱頭や玄関ポーチ上部にある櫛型、腰壁にはレリーフ状の四角形といった幾何学的意匠が確認でき、大正から昭和戦前に使われていたセセッション(ウィーン分離派)風の意匠を採用したものと思われます。また、内部においては、玄関床の色鮮やかなモザイクタイルが出迎え、シンプルでユニークな造りの階段を上がり、2階の格調高い洋風の集会室や和室へと誘う動線計画が緻密になされています。
以上から、当会館は、伝統的な木造工法を採用しながらも洋風と和風を融合し、独特な装飾をも取り込んだ、建築史的、文化的価値を持つ近代建築であると言えます。また、山口県教育委員会が1998(平成10)年に発行した『山口県の近代化遺産』の「各論編」にも掲載され、その高い歴史的文化的価値は、既に広く公に認められているところであり、国指定登録有形文化財に十分値すると考えられます。

(3) 栄町筋の都市景観を構成する重要な建物であること
防府市は、宮市を中心に歴史的に門前町、宿場町として発展し、神社仏閣も多く抱え、伝統的歴史的な町並みは、ある程度残されてきました。しかし、明治以降に建設され西洋の影響を受けた近代建築は、壊され続けています。『山口県の近代化遺産』のリスト中、「旧華城信用購買販売組合事務所(昭和6年)」、「旧長周銀行防府支店(大正15年)」、「旧華浦銀行本店(昭和14年)」などは、文化財級の建物であったにもかかわらず、既に解体されました。
本建物も、周辺の古い町並みにあって、昭和初期の近代建築として歴史的景観を形成してきた建物です。近代を含め、様々な時代を象徴する建物が町並みとして共存していること、建築文化にも重層性を持つことが、魅力的な都市景観形成につながると考えます。本建物が、防府市内でほぼ無くなりかけている近代建築を、都市景観上も重要な建築物として位置付け直す最初の事例となることを期待します。

以上から、私たちは旧宮市商参会館の保存活用を心から願うものでありますが、一方で地元からは「本会館を解体し、松崎公民館用の駐車場にしてほしい」との要望があるとも聞いております。
このため、私たちは「曳家移転方式」の保存を提案します。具体的には、裏手にある管理人住宅のみを解体した後に、本建物を同一敷地内東側に約15m程度曳家し、前面に空地を生み出す手法です。会館は残されると共に、通りに面して駐車場や広場ができる、極めて現実的で有効な提案だと考えます。因みに、都市計画道路の計画路線に当たっていた「柳井市町並み資料館(旧周防銀行本店)」は、平成12年、この方式で守られました。

また、現在、こうした近代建築は、機能に応じた整備や構造体の補強によって長寿命化を図り、末永く活用していくことが、建築資源の有効活用の観点からも求められており、近年は、「東京駅」や「田中絹代ぶんか館(下関市)」等のように、古くなった近代建物の用途を変え、新たな価値を見出して使い続ける「リノベーション」という手法や技術も格段に進歩しております。曳家移転と併せて、ぜひご検討下さるよう、お願いいたします。

貴下におかれましては、この貴重な建物の持つ高い文化的、歴史的価値、更に景観的価値について改めてご理解いただき、まずは当会館の詳細な調査を実施され、それを基に保存活用を図るための方途を、住民と共に積極的にご検討の上、推進されますよう、お願い申し上げる次第です。

なお、本会はこの建物の保存活用に関して、学術的、建築技術的観点からのご相談をお受けいたす所存であることを申し添えます。

敬具

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