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山口近代建築ノート第78回「防府市公会堂(三友サルビアホール)」~シンボル性と音響性能継承

▲南東側外観。1階ピロティに独立柱。その上にルーバー(日除け)付き大開口を持つ直方体ブロックが乗る。浮遊感のある斬新なモダニズムの造形だ
〔上右〕昭和61年頃の外観。塔には時計がはめ込まれている(参考19頁転写)
〔下右〕旧岩国市庁舎外観(参考44頁転写)
〔上左〕正面外観。後方フライタワーも低く抑えている
〔下左〕「サヴォア邸」外観(フランスポワシー、2019年5月撮影)

令和5年10月8日(日)、山口新聞「やまぐち近代建築ノート」78回が掲載されました。
今回は、「防府市公会堂」。
設計したのは、音響工学の先駆者としても知られる佐藤武夫(1899~1972年)です。
旧制岩国中学校から早稲田大学へ進み、同大学の助教授、教授に。
建築家としても活躍し、各地の市庁舎、市民会館など多くの公共建築を手掛けました。

私が結婚して住んだのは防府。
その時に、防府にこんな素晴らしい音楽ホールがあることを誇りに感じていました。
初めてユーミンのコンサート「パールピアス」を聴いたのもここ、クラシック音楽ヘンデルの「メサイア」を聴いたのもここ。
三年前、耐震改修と音響設計がなされ、より音響がよくなっています。

以下、「山口近代建築研究会HP」へ。(画像がクリアに大きく見えます。画像・文とも無断転用不可。)


昭和30年代、神武、岩戸景気を経て、日本経済は次第に活況を取り戻す。
都会はもとより、地方都市においても庁舎や学校、そして公会堂などの大型公共施設が次々に建設されていった。
この防府市公会堂は、昭和35(1960)年、県内で戦後最も早く建設された市民ホールである。
設計は音響工学の先駆者としても知られる佐藤武夫(1899~1972年)。
旧制岩国中学校から早稲田大学へ進み、同大学の助教授、教授となる。
建築家としても活躍し、各地の市庁舎、市民会館など多くの公共建築を手掛けた。
県内では、岩国徴古館(昭和25年、第70回)、岩国商工会議所(26年)、岩国市庁舎(34年)と、岩国に集中する。
キジヤ台風で被害を受けた錦帯橋の復興(28年)にも尽力した。

RC造4階建ての正面外観は、1階を独立柱の並ぶピロティ(柱だけの吹き抜け空間)とし、その列柱が上階の水平に広がる四角のブロックを支える形だ。
この外観で思い出すのは、近代建築の巨匠コルビジエの作品、世界遺産の「サヴォア邸」。
彼は、この住宅でピロティ、水平連続窓など「近代建築の五原則」を提唱した。
用途・規模は違うものの、この公会堂にもその原則を踏襲した共通の造形美を感じる。

1階玄関ロビーから、内部に入ると、客席床は2階まで緩やかに傾斜し、正面にプロセニアム形式の舞台。ホール内部は一体化し、落ち着いた雰囲気に包まれる。
音響工学の権威、佐藤の設計だけに、良質な音響は、開館当初から評判を呼んだ。

この建物は築60年を経過し、2020年には大規模改修が施されている。当初の外観イメージを継承しつつ、耐震化、バリアフリー化、更に音響性能の向上も図られた。
改修後のホールでコンサートを聴いた後、指揮者自らが「一段と音響が良くなりましたね」と聴衆に語られていた。音楽ホールとしての建築的価値をより一層高めたリニューアル。そこには佐藤武夫へのリスペクトがあふれている。

(山口近代建築研究会、一級建築士・原田正彦)

【メモ】防府市緑町一丁目9番1号、グッドデザイン賞2020、参考「山口建築ガイドブック」1986年山口県建築士会編

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