2022年11月27日(日)、山口新聞の「地域文化」欄に、第58回記事「惣郷川橋梁」が掲載されました。
今回取り上げたのは、建築でなく近代土木遺産の一つ「惣郷川橋梁」。
高速道路の高架橋のような外観ですが、実はこれ昭和7(1932)年の建設。
日本海の荒波のそば、JR 山陰本線の須佐-宇田郷間に架かる現役の鉄道橋です。
日本海の夕日をバックに列車がこの橋梁を渡るシーン…。
「撮り鉄」にも人気のビュースポットとしても有名です。
では、美しい景観を誇るこの橋梁の美の秘密は何なのか…。
それを、今回は「構造」の観点から観察してみました。
以下、以下記事。(画像・文とも無断転用不可。)
—————————————————————————————————————-
今回取り上げるのは、建築でなく近代土木遺産の一つ「惣郷川橋梁」。
一見高速道路の高架のようだが、実はJR 山陰本線の須佐-宇田郷間に架かる鉄道橋である。
昭和7(1932)年の竣工で、高さ約12m、全長189 mの規模を誇る。
設計は鉄道省、工事監理に関わったのは山口建設事務所の若き土木技師、市川順市(昭和4年東京帝大土木工学科卒)とされる。
橋梁にも、木造、レンガ造、鉄骨造などがあるが、ここは厳しい自然に対峙することから、耐久性の高い鉄筋コンクリート造とした。
また、材料の節減を図ると共に、背後に控える集落への環境的影響を抑えるため、ダムのような大壁を据えるのでなく、むき出しの柱と梁による「ラーメン構造」が採用された。
この構法は、清水寺を支える「懸造り」のような、日本の木造軸組にもつながるものだ。
機能的、合理的な造形にも美を見出す、その感覚がこの風景を味わいのあるものにしている。
もう一つ注目すべきは、橋梁全体を1つの構造体とせず、7つのブロックに分け、かつ「背割式」で継ぐ方式を取ったことだ。
3径間のラーメン構造を1ブロックとし、一つの橋脚基礎に2本の柱を背割りで並べることにより、ブロック相互の変位を低減できた。
そしてブロックの角度を変えてずらし、海岸線に沿った長くゆるやかで、美しいカーブを実現させたのだ。
この橋梁で採用されたこれらの方式は、今や鉄道や高速道路に広く普及していると言う。
近年、近代の橋梁が文化財となる事例は全国的に増えている。
ただ、山口県内の登録文化財の橋梁は、三見橋(萩市、大正3年、石造)、松室大橋(周南市、大正9年、鉄骨造)の二つくらいだ。
景観的に優れているだけでなく、技術的にも先駆けとなった歴史を持つこの橋梁。「文化財の橋梁」として、名乗りを上げてほしいものだ。
(山口近代建築研究会、一級建築士・原田正彦)
【メモ】阿武郡阿武町宇田惣郷、参考「山口県の近代化遺産~惣郷川橋梁」木部和昭 (平成10年)、「土木学会選奨土木遺産」(WEB)