2021年8月1日(日)、山口新聞の「地域文化」欄に、第32回記事が掲載されました。
今回は、建築の近代化が宗教施設にも浸透していった事例を紹介しました。
山口市大内矢田(旧吉敷郡矢田村)にある妙鑑寺は、室町期に創建された曹洞宗の名刹です。
その境内の北隅に、赤煉瓦の大壁、赤瓦の屋根、ちょこんと小塔の乗った建物、「位牌堂」があります。
なぜ、こんな不思議な姿をしているのでしょう…?
以下、「山口近代建築研究会HP」へ。(全文掲載、画像もクリアに大きく見えます。)
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山口市大内矢田にある妙鑑寺は、室町期に創建された曹洞宗の名刹である。
その境内の北隅に、赤煉瓦の大壁、赤瓦の屋根、ちょこんと小塔の乗った建物、「位牌堂」がある。
なぜ、こんな不思議な姿をしているのだろう…。
大正9年5月、不幸にもこの寺は火災に見舞われ、本堂ほか大部分を焼失した。
その衝撃冷めやらぬ中、住職、門徒らは再建への行動を起こす。
寺所蔵の「再建公文書綴」によれば、半年後の11月に寄付金募集計画と再建計画を県に申請、その認可後、建設に着工した。被災から一年半後には伽藍全てが再建している。
本堂と庫裏は以前と同じ木造。
しかし、位牌堂は当時の総代や建築委員からの助言を受け、耐火性に優れる煉瓦の採用となったと言う。
理由の一つは、位牌が並ぶ密な狭い空間で、火や線香を使用する機会が多いためのリスク回避だったろう。
内装においても、内壁は白漆喰塗、天井は不燃材の亜鉛板仕上げと、防火意識が徹底されている。
また、隣の山口町において、山口県図書館書庫や明治維新記念室など、収蔵を目的とした煉瓦建築が竣工していたことも影響したのではないか。
一方、小塔は窓の少ない内部への明り取りとして機能している。
天光に照らされた薄明かりの中、内部には多くの位牌が並び、静かで厳かな祈りの空間となっている。
火災の経験から、耐火を第一とした建築だったが、この独創的な形態と鮮やかな煉瓦の色彩は、信徒だけでなく、周辺住民にも広く心に刻まれていく。大正から現在に至る百年間もの維持の結果、「国土の歴史的景観に寄与する赤煉瓦の位牌堂」として、今年3月、国登録有形文化財に答申された。
若い住職の中村通良氏が、「貴重な建物をこれからもずっと引き継いでいきたい」と保存に向け、強い意欲を示されていた姿が、頼もしく心に残る。
(山口近代建築研究会、一級建築士・原田正彦)
【メモ】山口市大内矢田南8-18-1、参考「妙鑑寺位牌堂所見等策定業務報告書」(山口県建築士会、2020年)